2000年代中盤以降、医学部人気に拍車がかかり、志願者数の増加、入試難易度の上昇が顕著に表れている。国立医学部の志願者数は、2007年に30,354人であったが、2014年には32,505人に増えた(参考)。私立医学部の志願者数は、2007年に69,421人であったが、2016年には106,744人に増えた(参考)。2007年以前はもっと志願者数が少なかったと思うので、私立医学部に関しては2倍近くの増加になっていると考えられる。
この志願者数の増加は就職氷河期と大きく関係している。就職氷河期とは、1993年〜2005年、2009年〜2013年の期間を指し、特に1993年〜2005年に関しては超氷河期であり、1999年には有効求人倍率が0.48ととんでもない数値を記録した(※下記資料参照)。ちなみに、2018年は1.48である。
就職氷河期世代は、100社エントリーというのは当たり前で、早慶を出ていても名前の知らない中小企業にようやく滑り込むといった人が非常に多く、女子ならば高学歴でも一般職しか働き口がない状況であった。もちろん、超優秀な人は総合商社や都市銀行に内定をもらえたが、ごく一部である。そもそも、中小企業に入れればいい方であり、就職で躓いてニートになる人が増え、社会問題にもなった。
こうした社会情勢は、資格試験や公務員試験に大学生を誘導させた。超氷河期世代は企業への就職から方針を転換し、超氷河期世代を見て育ったバブル期生まれの受験生たちは安定を求めて一般企業への就職以外の道を模索することとなった。それもそのはずである。そこそこ高難易度の文系大学に入ったとしても、平均年収400〜500万円では公務員の方がいい暮らしができるからである。そのため、2000年代の公務員試験は難化を極め、地方の町役場ですら高学歴の内定者が珍しくなく、さらにそれが勝ち組であるともされた。
資格試験へ人材が流れるとすると弁護士や公認会計士などもあるが、抜群の安定感と給料を確保できる医師が注目された。事実、弁護士や公認会計士はここ15年で待遇がガタ落ちとなっている。医師が最も安定しているとの世間の評価は一致し、2000年代以降に皆が医学部を目指したためその人気は上昇一途であった。
とすると、超氷河期が終わってしまえば医学部人気は陰りを見せるのかと思われるだろう。しかし、志願者数は2014年にピークを迎え、それ以降も同レベルを維持しているのだ。これは、医師という職業自体が注目されたことにある。というのも、1990年代以前は、医師という職業は身近に医師がいないとピンとこないものであった。しかし、多くの人が受験をし、医学部受験を現実的に考える環境になったことで、医師という職業についても世間の目に触れることになった。医師の給料に記してある通り、医師の給料は高い。「大学病院勤務医は給料が安い。」と言われているが、実は1000万円はもらえる。無知な記事を参照すると、「大学病院勤務医は年収300万円。」などと書いてあるものもあるが、大きな間違いである。そのため、医師という職業を調べた際に「思っていたよりも給料が高い。」と思った人も多いだろう。大学病院で研鑽を積み、一般病院へ就職すれば1500万円〜2000万円が確保され、さらに開業すれば2000万円〜3000万円である。
ただ、勤務医のみで考えた場合、給料の面では外資コンサルや総合商社には劣るであろう。勤務医の給料は、生涯収入で考えた場合、都市銀行と同等ぐらいか。それでも医師にはアドバンテージがある。それは「自由度の高さ」にある。大企業で高年収を確保していても、その会社を辞めてしまえばただの人である。特に都市銀行や総合商社のスキルは、その会社を出てしまえば通用しない。しかし、医師ならば働く場所は違えど仕事の内容はどこに行っても同じである。なので時給1万円以上のアルバイト求人がたくさんある。「嫌なら辞める。」ということが現実にできる。もちろん頻繁にする人は信用がなくなるが。こうした自由度の高さが医師の魅力であり、それでいて給料も高いため、医学部人気が継続することとなった。
さて、今後はどうだろうか。医学部定員が医師の待遇は確実に落ちるだろうと予想される。2000年代前半には7600人であった定員は、2015年には9100人を超えた(参考資料、参考資料)。実に1500人も増員されたのだ。司法試験の合格者数が3倍増となり、待遇がガタ落ちした例と比較すると影響は少ないかもしれないが、確実に待遇は落ちるだろう。そこへきて景気回復により、待遇のいい企業への就職が容易になってきている。医師という職業のメリットは認めつつも、それよりも簡単に好待遇を得られる他学部への進学者が増えることが予想される。そもそも安定第一の医学部がこれだけ過剰な人気を得ていることが異常な現象であり、今後は緩やかながら医学部人気はあるべきところに収束していくだろう。
年度 | 有効求人倍率 |
1991 | 1.40 |
1992 | 1.08 |
1993 | 0.76 |
1995 | 0.63 |
1997 | 0.72 |
1999 | 0.48 |
2001 | 0.59 |
2003 | 0.64 |
2005 | 0.95 |
2007 | 1.04 |
2009 | 0.47 |
2011 | 0.65 |
2013 | 0.93 |
2018 | 1.48 |
年度 | 合格者数 |
1970 | 507 |
1980 | 486 |
1990 | 499 |
1995 | 738 |
2000 | 994 |
2005 | 1464 |
2010 | 2133 |
2014 | 1810 |
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